超伝導薄膜探索プロジェクト報告

専攻科(機械知能システム工学科兼担)教授 木場 信一郎

機械知能システム工学科 准教授 毛利  存

1.はじめに

本プロジェクトが扱う超伝導が持つ物理的な特徴は、永久電流(抵抗ゼロ)、完全反磁性であり、これらの特徴を発揮するもとになる電気伝導の担い手は、クーパー対(電子対または正孔対)と呼ばれ、電荷が2個で一対となって物質中を移動することにより発現する。

これらのうち、永久電流とクーパー対の移動を活用すれば、それぞれ超高速新幹線リニアモーターカー、スマートグリッドの基幹技術の一つである低損失送配電システム、医療診断に使われているMRIや心臓・脳波の診断に威力を発揮する超伝導量子干渉デバイス(SQUID)、将来のスーパーコンピューターの量子コンピューターなど応用範囲は広い。これらは、従来の超伝導体群により一部実用化されている。これに加えて、さらに高い温度で超伝導となる高温超伝導体と呼ばれる酸化物の物質群が1996年に発見され、応用を期待できる分野の広がりと、従来技術が比較的安価に実現できる可能性が出てきている。

本プロジェクトは、超伝導材料のうち主に高温超伝導体群をターゲットにして、新規薄膜材料の探索とセンサー等の素子、薄膜線材への応用の基礎となる物質の薄膜物性を研究の目的としている。

2.活動内容

研究項目

1) 産業技術総合研究所との共同研究による新規薄膜材料の探索
薄膜作製に用いる手段は、図1に示すパルスレーザー薄膜作製装置(PLD装置)を用いて、有毒元素や重金属元素を含まない100K超の高温超電導体の薄膜化とその基礎物性の探索を行っている。具体的な材料は、超高圧合成により108Kの超伝導転移温度(Tc)を有する頂点フッ素Ba系銅酸化物であり、このシリーズは、124K以上の超伝導性も予測されている。本研究は、平成21年にスタートし、現在も進行中の研究課題である。

2) 薄膜材料の積層化による応用を目標とした基礎物性に関する研究
すでに薄膜材料として一般的な高温超伝導物質のうち、Tc=90K のYBa2Cu3Oz薄膜(Y-123)を積層の基盤材料として、物質がもつ特有の不安定性のために薄膜化が困難なBa-Ca-Cu-O(100K)の安定化とTcの向上を目標としたY-123/Ba-Ca-Cu-O/Y-123積層構造の作製と物性について、実験研究を進めている。

3) 薄膜材料の応用を目標とした基礎物性に関する研究
図2に示すRFスパッタリング装置により、線材として応用が進むBi-Sr-Ca-Cu-Oの薄膜作製と物質の基礎物性について、結晶欠陥や臨界電流の向上等の応用上問題となるファクターに焦点を当て実験研究を進めている。

図1.パルスレーザー薄膜作製装置とPLDの様子 図2.RFスパッタリング装置

研究成果

1) 頂点フッ素Ba系超伝導薄膜について
超伝導転移と思われる特性は、一部の薄膜試料で観測されているが、転移開始温度が液体窒素の沸点(約77K)より高いが100K以下である。図3による結晶構造の分析の結果を基に薄膜の単相化と作成再現性について、基礎的なデータを収集している段階である。

2) 積層Y-123/Ba-Ca-Cu/Y-123の超伝導特性について
鹿児島大学の協力により、物理的特性計測システム(PPMS)の帯磁率特性に構造がみられることから、図4に示すY-123/Ba-Ca-Cu/Y-123の積層構造の作製については、それぞれの薄膜で物質の特性を維持したまま積層されている。また、Ba-Ca-Cu/Y-123の結晶構造分析結果により、基板に単体のBa-Ca-Cu薄膜を形成する場合に比較して、結晶性が向上する。これらの知見は、特許の出願へ繋がった。さらに高Tcを目指して、工夫を重ねる。

3) 応用が進められている材料の薄膜化とその物性について
RFスパッタ法によるBi-Sr-Ca-Cu-O(Bi系)超伝導体の薄膜化における課題とその解決法を探索している。図3による結晶構造分析結果と薄膜の組成の変化が、図5に示すような作製プロセス中の反応ガス分圧に依存することが明らかになった。Tcが高い相の薄膜作製における要素の1つを押えられたことにより、今後さらに膜質のよいBi系の薄膜化を進める。

図3.薄膜X線回折装置
(専攻科共同利用設備)
図4.高速電子線回折による
積層Ba-Ca-Cu/Y-123の表面結晶性
と作製プロセス
図5.EDXから得られた[Bi]/[Cu]値と、
XRDによる結晶構造中の[Bi]/[Cu]値の
比較

3.おわりに

今年度は、各研究テーマで物質探索や作製した薄膜の膜質の評価などに高い精度と汎用性を持った、図3のX線回折装置(XRD装置)が専攻科に整備され、成果に繋がりつつある。今後も新規薄膜材料の探索と薄膜デバイスへの応用の基礎としての物性を探求し成果を積み上げる。

4.業績一覧

  1. S.Koba,Y. Hakuraku, Superconducting transitions of Y-123/Ba-Ca-Cu-O/Y-123 layered structure, Journal of Physics:Conference Series of IOP,150,052114,(2009).
  2. Z. Mori, T. Doi, et.al, Growth of bi-axially textured Bi2Sr2Ca1Cu2O8+d(2212) thin films on SrTiO3 substrate by sputtering method, Physica C, 468 1060-1063 (2008).
  3. [出願特許] マルチターゲットスパッタ装置 特願2010-007609
  4. [公開特許] 酸化物超電導薄膜の製造方法 特願2009-06569