次世代移動通信用マイクロ波帯広帯域フィルタの研究について

専攻科(情報通信エレクトロニクス工学科兼担) 准教授 小田川 裕之

1. 背景

近年、携帯電話等の移動通信システムのトラヒックは著しく増加しており、2020年には、2007年の約200倍になるとの試算がされています[1]。iPhoneやAndroidなど携帯情報端末と携帯電話が融合したスマートフォンの発展がよく話題になっていますが、今後、従来の通信に加えて、無線通信システムを利用した新サービス・新ビジネスが、安心・安全・医療などの分野とも関連して次々に生まれてくることが予想されます。それに伴って通信の高密度化が進み、大量の情報を伝送できる高周波・広帯域の通信システムやそれを実現する新しいデバイスが必要となってくることと思われます。
無線通信システムには、不要な信号を除去し目的の信号だけを選択するフィルタという素子が多数用いられています。現在の携帯電話には、弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)[2]と呼ばれる高周波の固体振動(超音波)を利用したフィルタが用いられています。SAWフィルタは電波の周波数(約2GHz)で1秒間に20億回振動しながら目的の電波を選んでいます。このようなフィルタも通信方式が新しくなるに従って、要求される仕様が厳しくなっていくため、本研究室では、次世代(或いは次次世代)の通信システムに対応できるように、より高周波・広帯域且つ低損失で選択性の高いフィルタを実現する研究を進めています。

2. 新しいフィルタのコンセプト

SAWフィルタには多くの種類がありますが、図1(a)のようにSAW共振器を梯子状に接続したラダー型フィルタ[3]は広く用いられているものの一つです。このフィルタで信号を通過させるためには、図の共振器Sに信号を通す必要があり、そこでの損失をいかに抑えられるかが低損失化のカギとなります。一方、図1(b)はマイクロストリップ線路等を用いて実現されるトラップフィルタの例です[4]。こちらはSAWではなく伝搬路長の異なる線路を伝搬する電磁波を結合することで、その2つのパスの干渉によって通過域と遮断域ができる仕組みです。これには、減衰する要因となる素子が入っていないため低損失の特性が得られますが、遮断特性はこのままでは十分ではありません。そこでこの異なる2つの原理を融合させることで、特性を大きく向上させたフィルタを得ることができるのではないかと考え、いくつかのシミュレーションと実験を行いました。


図1.新しいフィルタのコンセプト

3. シミュレーションと実験結果

図2(a)は等価回路解析の結果で、同図(b)は実験結果です。本研究は昨年本校に赴任してから新たに開始したもので、一足飛びにマイクロストリップ線路とSAWの融合とはいかないため、まず卒業研究としてSAW共振器の変わりに単なるコンデンサをマイクロストリップ線路に付加して実験したものです。実験では、損失がやや大きく帯域外の減衰が不十分ですが、シミュレーションのようにフィルタ特性が得られています。特性が劣化しているのは、基板に誘電損失が大きい基板を使用していること、構造の最適化ができていないため位相が若干ずれていることなどが原因であることが最近行ったシミュレーションで分かっておりますので、これらを考慮したデバイス設計を今年度の卒業研究で進めているところです。
図3は、専攻科生の特別研究で行っている結果の一部で、SAW共振器を利用したときを想定し、素子のインピーダンス特性を周波数によって変化させたときのシミュレーション結果です。SAW共振器はインピーダンス特性が周波数とともに変化する素子として利用でき、その周波数特性は比較的高い自由度で設計が可能です。この図から、SAW共振器を用いることで急峻な減衰が得られることが分かります。このように、本フィルタは、高周波・広帯域・低損失且つ急峻な減衰特性を得られると考えています。


図2.フィルタの周波数特性


図3.SAW共振器を利用した場合の周波数特性

4. まとめ

本研究は、次世代の通信システムに対応可能なマイクロ波帯のフィルタに関する研究で、国立高等専門学校機構から特許出願するところまで進めることができました。また、昨年開催された九州沖縄地区高専新技術マッチングフェア、及び、九州横断4県合同新技術説明会で発表させていただくことができ、参加企業の方からも関心をもっていただいております。
SAW素子の電極幅は数100nm以下であり微細加工が不可欠となります。私の学位論文は、微細加工技術を用いた超高周波低損失弾性表面波フィルタに関する研究で、リソグラフィ技術を駆使して微細電極を作り続けていました。微細加工技術はフィルタに限らず多くのデバイスに共通する部分がありますので、地域産業の発展にその経験が少しでもお役に立てればと思っています。本研究以外にも、高周波・圧電材料・強誘電分極反転をキーワードに各種デバイスの研究を進めていますので、産業界の皆様との交流を進めていく中で、世の中があっというような新しいデバイスを実現することができればと思っております。

参考文献

  1. 吉田靖: ITUジャーナル, Vol.40, No.1,pp.26-29 (2010).
  2. 日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会: 編弾性波デバイス技術, オーム社 (2004) など.
  3. 佐藤良夫他: 電子情報通信学会論文誌A, Vol. J76-A, No.2, pp.245-252 (1993).
  4. 小西良弘:通信用フィルタ回路の設計とその応用, 総合電子出版社 (1994)など.