水産未利用資源の有効利用に関する研究について

生物化学システム工学科 准教授 墨 利久

1. はじめに

私はこれまで、水産物に含まれる複合糖質および多糖類について研究を行ってきた。何故、水産物を対象としているかと言うと、競争相手が少ないからである。また、糖質関連の研究を行っている研究者も少なく、能力のない私には打って付けである。そこで、私がこれまで行ってきた研究の中で、海苔に含まれる水溶性多糖類・ポルフィラン (Porphyan)についての研究を紹介したい。
有明海は、日本有数の海苔の生産地であり、毎年約30万トンの乾海苔が生産されている。その過程で、商品価値のない海苔が約1,200トン廃棄されていると見積もられている。そこで私は、この廃棄海苔に着目し、ポルフィランを抽出・利用しようと考えた。ポルフィランは、乾燥海苔の重さの1/3を占める水溶性多糖類で、海苔の細胞間に存在している。ポルフィランは、水溶性の食物繊維で、その水溶液は粘度を持つがゲル化しないという特長を持っている。陸上の植物は、冷凍すると体積膨張した水によって細胞壁が破れ、再生することが出来ない。しかし、海苔は、冷凍しても再生する事が出来る。私は、この特徴がポルフィランの効果によるものだと考えている。海苔養殖は10月~3月に行われるが、10月の段階で網に海苔胞子を付着させておき、12月以降は冷凍してあった網を使用して養殖が行われる。海苔養殖は、草体が伸びては刈り伸びては刈りを3回繰り返す。刈り取る毎に、海苔の等級が下がることが経験的に知られている。
近年、中国産や韓国産の海苔に押され、また、地球温暖化による環境変化により、有明海の海苔養殖は危機にさらされている。そこで、ポルフィランを有効利用することにより、養殖漁家の収入増と新規産業の創出が出来るのではないかと考え、本研究を行った。

2. 研究の概要・方法

ノリを80%エタノール中でジェネレーター型ホモジナイザーを用いて破砕し、75℃で2時間撹拌して色素などを抽出・除去した。得られた脱色ノリ (10 g)を蒸留水(4 L)中、95℃で1.5時間撹拌しながらポルフィランを抽出した。抽出液に含まれる核酸をヌクレア-ゼP1で分解した後、抽出・濃縮液からエタノール分別沈澱によりポルフィランを沈澱させ(エタノール濃度43〜57%(v/v)沈澱画分)、透析後、凍結乾燥した。得られたポルフィラン(収量2.3 g) は、高純度で、UVスペクトル(200〜350nm)において吸収を示さなかった。また、ポルフィランの特徴的構成糖である3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(AG)は、酸加水分解やメタノリシスにおいて破壊されるので、今まではGLCや HPLCにより分析することができなかった。ポルフィランを無水条件下でメルカプトリシスすることにより、AG及びその他の構成糖をジエチルジチオアアセタール誘導体として定量的に遊離させることに成功し、これら誘導体をGLCまたはHPLCで定量する方法を確立した。さらに、得られたポルフィランの免疫亢進機能を、ラットを用いて検証した。

3. 研究成果

ポルフィランは、(D-Galβ1→3 L -AGα1→3-D Galβ1→3 L-Gal-6-Sulfate→)nという構造を持っている(図参照)。つまりGal : AG = 3:1の割合である。寒天は(D-Galβ1→3 L -AGα1→)nという構造を持っている(Gal : AG = 1:1)。ポルフィラン水溶液がゲル化しないのは、硫酸基のマイナス荷電が反発し合い、水素結合してゲル化(もしくは沈殿)するのを防いでいるからである。実は、ポルフィラン水溶液をアルカリ性にすると、硫酸基を持つGalが「ワルデン転移」という反応を起こし、硫酸基が脱離してAGとなり、ポルフィランは寒天になる。前述したが、海苔は、伸長・刈り取りを繰り返すが、刈り取りを行う毎にAGの含量が多くなり、寒天に近い構造となることが判明した。GalとAGの割合は、海苔の等級にも関係しており、AGの割合が増えるほど(構造が寒天に近づくほど)、等級が下がることも判明した。これまで、経験的に知られていたことを、化学的に証明したのである。さらに、上質海苔ではGal : AG = 5 : 1を超えるものがあることも判明した。これらの結果は、ポルフィランの構造が、通常考えられているようなGal : AG = 3 : 1と一定でないこと、ポルフィランが海苔の物性・テクスチャーに大きく影響していることを示していた。
また、一般的に食物繊維は、人間の免疫機能を上げることが知られている。ヒトは、消化できないものを「異物」として認識し、抗体を産生する。この作用は「腸管免疫作用」として知られている。そこで、ポルフィランと他の食物繊維(セルロースおよび寒天)をラットに投与し、抗体産生能(免疫グロブリンA産生能)を比較してみた。すると、ポルフィランは、野菜の食物繊維(セルロース)より2倍以上も抗体産生能を高くすることが判明した。この結果は、廃棄海苔中のポルフィランが機能性食品素材として利用できることを示している。今後、さらに本研究を進め、簡易調製法を確立し、地域に根ざした新規産業の創出を目指したいと考えている。